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医療政策

新年度のスタートに思う。~医薬品の交渉環境の大激変に挑むには~(No.34)

私が休職していたこの1年と6か月の間に、医薬品業界で大きく変化したなと感じていることが三点あります。

第一点は、医薬品納入価格の施設間の差が非常に大きくなっていること。もう一点は医薬品の一社流通品が急激に増えたこと。そして、もう一点が後発品を中心として安定供給が成されなくなっていることです。

 厚生労働省は「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」の改訂版を発表し、今年1月(2022年)日本医薬品卸売業連合会に遵守するよう通達をだしました。その中には、「個々の医薬品の価値を踏まえた単品単価交渉を行うこと」、そして「医薬品の価値を無視した過大な値引き交渉及び不当廉売の禁止」をうたっています。これは当初2018年に出されたガイドラインとほぼ変わっていないのですが、どうも業界の動きは逆行しているように感じます。医薬品の売価の差、安値と高値の差が非常にひどくなっているのはどういうことなのでしょう?医薬品には、詰まるところその価値に見合った価格なんてないのでしょうか?

また、今回のガイドラインでは、「卸売業者は、個々の医薬品の仕切価に安定供給に必要なコストを踏まえた適切な価格設定を行うとともに、保険医療機関・保険薬局にその根拠と妥当性を説明するなどにより、価格交渉を進めること」とうたい、厚生労働省は医薬品納入価格の根拠を卸売業者に、その責任をおしつけました。厚生労働省が薬価を決めているのですが、その根拠はどこにあるのでしょうか。厚生労働省は薬価調査に基づいて薬価を決めているとしていますが、その中身は見せてもらえず、その根拠は非常に疑わしい限りです。薬価を決める根拠があるのなら、薬の価値に合った価格も・・・。

この一年半の間に一社流通医薬品が非常に多くなっていることにびっくりしました。そしてそのほとんどが価格交渉に応じてもらえず、また返品にも応じてもらえないとのことです。どうして一社流通になったのか、そして価格交渉に応じてもらえないのか、その根拠をメーカー・卸に求めても納得いく答えが返ってこないこともあります。また一社流通であるにもかかわらず、その地域にその医薬品卸のデポ(物流拠点)がなく、遠いところから時間を掛けて納入されるという、病院にとっては非常に不都合な取引となってしまっている地域もあります。どうもメーカーの価格防衛策に卸が乗っ掛かり、薬価防衛対策をしているようにしか思えません。この一社流通の問題、公正取引委員会はどう見ているのでしょうか?

財務省・厚生労働省は医療費抑制策の一環として、保険医療機関・保険薬局での後発品採用策を推し進めてきました。ところが一部の後発医薬品製造企業の製造管理・品質管理の不備により、後発医薬品の出荷停止や製造縮小したことにより、約3,000品目以上の製品の供給に影響が生じています。後発品製造企業のまだまだ脆弱な企業体質を鑑みず、後発品採用を推し進めてきた財務省・厚生労働省の責任もあるのではないでしょうか。病院現場は非常に混乱をきたしており、また患者に迷惑を掛けている状態となっているのですが、厚生労働省はその責任を全て製造企業に押し付けています。

病院経営にとって、医薬品・診療材料の価格は非常に重視しておきたいものです。病院の支出を見ると、人件費の次に多いのが医薬品費、そしてその次が診療材料費となっているからです。そして薬価差益及び材料償還差益は病院の利益とつながるものです。今回の診療報酬改定(令和4年度)では、診療報酬部分でプラス0.43%、薬価等の部分でマイナス1.37%、結局マイナス改定ということで決まりました。またプラス改定の部分をみても、どちらかというと、高度急性期医療を行っている病院や、不妊治療を行っている医療施設が恩恵を受けるような内容となっており、一般の急性期病院が恩恵を受ける部分は非常に少ない内容となっています。そして薬価等(材料含む)の部分で減収となります。診療報酬改定時、病院はその影響を調査しますが、診療報酬部分での調査にとどまり、薬価等(材料含む)の部分を調査することを忘れているケースをよく見かけます。診療報酬部分だけを見てプラスになるからと喜んでいてはいけません。薬価等(材料含む)部分も見、トータルでどうなっているか見て、プラスになっているのなら喜んでいいでしょうが、マイナスになっていれば、その対策をしなければいけません。

 新型コロナと戦っている医療者を無視するかのように、国は診療報酬を引き下げました。文官優位・武官軽視の文化、そして現在の文官優位・技官軽視の文化が、財政優先・現場軽視の文化に繋がり今回の改正となったのでしょう。病院の経営は非常に厳しい状況ではありますが、一縷の望み捨てずに前に進むしかないようです。

今年度も頑張りましょう。