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医療政策

新型コロナ対応、そしてその先にある病院経営を考える(No.35)

その1:公立病院経営強化ガイドライン

 総務省は「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」を公表し、経営強化プランを策定するよう、地方公共団体に対して通知しました。この経営強化プランは、令和4年度又は5年度中に、令和9年度までの期間を対象に策定するようにとのことです。その内容のポイントは

    1)役割・機能の最適化と連携の強化

    2)医師・看護師等の確保と働き方改革

    3)経営形態の見直し

    4)新興感染症の感染拡大時等に備えた平時からの取り組み

    5)施設・設備の最適化

    6)経営の効率化等

となっています。そして地域医療構想との整合性、それと機能分化と連携強化の部分では都道府県の役割・責任を明示しています。

 この総務省が公表する経営強化ガイドライン、そして作成しなければならない経営強化プランは公立病院に適用され民間病院には適用されない、片手落ちではないかと前々から思っていました。「地域医療提供体制を確保するための」とうたうのなら、大学病院はじめ民間病院、全ての病院が参加して協議する場をまず整備するする必要があるのではないでしょうか?新型コロナ対応のように、自治体病院の頑張りだけでは、乗り切れない困難がこれから先いくつも予想されます。総務省管轄の病院だけでいくら「経営強化プラン」を作成しても絵に描いた餅になってしまう感がどうしてもぬぐえません。

 いずれにせよ、公立病院は経営強化プランを作成しなければいけません。新型コロナの収束さえもおぼつかない状態で、その先にある感染症への取り組みを考えるなど、無理な条件設定もあります。でも、考え方一つかもしれません、同じ労力を使うのなら少しでも自院が良い方向に向かうよう、ポジティブに考えて作業を進めて下さい。なにかヒント、気付きが見つかるケースがよくあります。

その2:世界情勢による安定供給の問題と物価上昇

 マスコミが報道するように、物資の安定供給の問題、そして物価上昇の問題が起こっております。新型コロナ禍とウクライナ危機による燃料・原材料価格の上昇が主因ですが、日本では円安も影響しています。そして医療界をみてもその影響が出始めていることを理解しておく必要があります。

 半導体の不足により医療機器の生産が遅れ、今までは2~3か月で納入されていた機器が半年、場合によっては一年かかるというケースがでてきているようです。自治体病院では年度内予算執行ができなくなる場合があるので要注意です。

 また新型コロナの影響では、当初中国上海がロックダウンされ、大手診療材料メーカーの材料出荷調整が起きています。日本国内では不足が起きないぐらいの在庫を抱えているとのことだったのですが、ここにきて安定供給が難しくなってきているようです。特にチューブ類、針等は他メーカーからの供給も可能になるよう準備を進めておく必要があるかもしれません。

 ある病院では、外資系診療材料メーカーの営業マンが、全商品標準化も納入価も3%の値上げをすると言ってきました(糸は5%)。燃料・原材料の価格上昇が原因です。たぶん今後こういった材料メーカーが数多く出てくることが予想されます。別のメーカーからは、値上げの話を病院に持っていったらどう反応されるだろうか、拒否されるだろうかと、相談がありました。このメーカーは大手で、昨年度の決算の成績が非常に良く、そのメーカーが値上げをするとなると医療業界からの反発が必須ではないかと心配されていました(実際は海外での成績が非常に良く、国内はさほどでもないのですが)。

 世界情勢は刻々と変化しています。その変化に乗り遅れないよう、あらゆる分野から情報を集め対処する必要があります。

その3:診療報酬改定の影響について

 今年度は診療報酬が改定されました。本体部分で+0.43、薬価・材料の部分で-1.37%ということですが、高度急性期病院以外の病院では収益がマイナスとなっていると伺います。年度当初、私が自治体病院と話す中で、以下のような影響が聞かれました。

 ・外来では薬価のマイナス改定がそのまま収益に響いているようです。特に後発品採用が高い病院ではその影響が大きく、後発医薬品使用体制加算5%を取るのがいいのか、後発品を先発品に変えて薬価差益を取る方がいいのか分析する必要がありそうです。

 ・入院では、地域包括ケア病棟の実績要件や施設要件がかなり大きく見直され、非常に厳しい改定になりました。何もアクションを起こさなければ最悪60%近い減算を覚悟しなければならないようです。特に在宅医療に対する取り組み、もしくは在宅医療に熱心な医療機関があれば、そことの連携が鍵となるようです。

 自院で今回の改定の影響がどこにあるのかしっかり分析し、その対策を明確にし、しっかりとその対策を実行していかなければ、新型コロナ補助金が打ち切られる可能性も否定できない、今年度の下期の経営、そしてさらにその先の経営が非常に厳しくなることが見えています。この上期のうちにしっかりと分析を行い、対策を立て、実行に移せる準備をしておいてください。