2012年のある日、1社流通を手掛けた卸の幹部の方から、彼の手帳を見せていただいた。
そこには、聞いたこともないメーカーの名前がびっしりと書き込まれていた。これらのメーカーは希少疾病領域の薬剤を持っており、日本での上市を計画しているとのことだった。
それらのメーカーの当初の社員数は2~3名程度のごく少数であり、日本市場での開拓を任されていた。
そこに着目し、ビジネスチャンスとしたのが某大手医薬品卸であった。同卸は、日本市場への上市を目指すメーカーに対し、販売体制の構築に向けた支援を行った。内容は、銀行の紹介や事務所探しなど、事業立ち上げに関する実務的なサポートから始まっていたと聞いている。その見返りとして、当該メーカーの販路を同卸1社が担うという形になった。
これが、1社流通の始まりである。
2026年現在、購入上位品に並ぶ1社流通品
それが2026年現在、各病院の購入上位品に、1社流通品、いわゆる限定流通品というスペシャリティ医薬品が名を連ねている。
確かに、希少疾病薬、バイオ製剤、特殊物流を必要とする製品もある。高薬価で在庫が偏在し、必要な時に物流が滞る懸念が払拭できない製品もある。
しかし、どう考えても1社流通品にする理由が見当たらない製品も多いのが実態である。
卸間競争が消え、納入価格は高止まりする
1社流通にすることで卸間競争はなくなり、納入価格の高止まりを招いている。中には、調整幅2%を割り込む納入価格も散見される現状となっている。
病院は、1社流通品に対して価格交渉ができない。
卸の現場責任者でさえ、卸本部で価格を厳しく管理されており、システム上、価格を下げることができない状態となっている。
これは、メーカーの薬価防衛策そのものである。
取引卸を絞るという強硬な手段に出てでも価格を守らせる。そうした圧力以外には考えにくい。
卸はメーカーの方しか見ていない
「限定流通品、つまり1社流通品を獲得する」という卸幹部の言葉が、業界紙に普通に書かれる時代となっている。
卸は、メーカーの方しか見ていない。
病院は、1社流通品以外の製品に的を絞って、納入価交渉をするしかない。
病院側が考えるべき対応
病院側としては、次のような視点を持つ必要がある。
- 1社流通メーカーのために、他メーカー品を犠牲にしてまで守るべき製品なのか
- 本当に1社流通品を使わなければならないのか
- 院内フォーミュラリーや地域フォーミュラリーを制定し、1社流通品は原則として使わないという対応ができないか
- 1社流通品以外の製品について、より厳しく価格交渉を行うべきではないか
卸からは、「1社流通品は取扱手数料を上げないと採算が合わない」というクレームが上がる可能性がある。
しかし、だからこそ病院は、他製品の交渉をより厳しく進めなければならない。
他メーカーからの不満や圧力によって、製薬協内部からもこの問題が問題視される可能性が高まるかもしれない。
卸の物流会社化が進む可能性
このままでは、卸の機能縮小、つまり卸の「物流会社化」が進む可能性が高い。
価格交渉機能は弱まり、卸は物流、保管、情報提供に特化していく。
卸は、これを望んでいるのかもしれない。
しかし、卸の収益モデルは限界に近付いているように見える。
いよいよ、物流専門会社が参入できる土壌を、卸自らが耕しているのかもしれない。
そうなると、メーカーも1社流通をどこまで維持できるのか、改めて検討せざるを得なくなる。
当研究所の方針
当研究所では、いわゆる「似非1社流通品」に対して、今後も厳しく対応していく。
流通改善ガイドラインにもあるように、1社流通品にした理由の説明、そして、なぜその卸に任せるに至ったのかという理由の説明を、メーカーと卸に対して強く求めていく。
今後も、メーカーと卸を徹底的に困らせていきたい。