医薬品、診療材料など、病院購買の主要分野での条件交渉はすでにスタートしているが、本年度大きな焦点となるのは、トランプ関税を始めとする米国発の動きではないだろうか。
まず、関税については、医療機器についてはすでに相互関税の対象であり、医薬品も対象外ではない。税率や対象範囲、時期は不明ながら、米国は医薬品においても関税措置が妥当であるかどうかを検証するとして、輸入される医薬品が安全保障に影響を及ぼしているかの精査を開始している。また、海外市場での非関税障壁にも興味を持っているのは周知のとおりで、日本の複雑な薬価改定の仕組み等がターゲットになる可能性は大いにある。
また、医薬品に関する動きはこれにとどまらない。トランプ大統領は米国の医薬品は世界的に見て割高として、米国内の薬価を引き下げることを求めるという大統領令を発している。これには、輸入される医薬品も対象で、薬価を引き下げない場合には費用負担を米国の患者に不当に転嫁しているとして、追加関税を導入する意向であることも示した。
原材料比率の低い医薬品において、トランプ関税が発動されたとしてもどれほどの影響があるかは見定めにくい。また、米国内の薬価を引き下げるという大統領令についても、具体的にどのように法手続き上で強制していくかについては不透明な部分は多い。ましてや、これらの措置はだれの目から見ても、もっとも不利益を被るのは米国民である。したがって、最終的にどのように決着するのかは現時点では何もわからない、というのが実情であろう。
しかし、この不透明な状況こそ、医療現場にとっては価格交渉上の大きな障害となろう。先行きが見えないが故に、企業(メーカーや卸)が過度な価格防衛策を展開する、極端な生産シフトをクロスボーダーで進める結果として、さらに供給不安が増長される、などのリスクが予想されるのである。そして、そうしたリスク要因を制度の中で吸収しきれないほど、日本の薬価制度や診療報酬制度も余裕がなくなっている。
極端な自己防衛がないか、リスクをすべて医療側に転嫁する意識がないか。そうした個々の医薬品政策を超えた企業行動にも着目し、問題点を指摘していく姿勢が、今年度の価格交渉には求められる。病院が一丸となって、今まで以上の情報戦を展開していくべきである。