フォーラムNo.S-7
アベノマスク
歴史を振り返った時に、第2次安部政権崩壊の引き金の1つとして語り継がれるかもしれない"アベノマスク"だが、その効果に対する疑問や発注先への疑惑が広がる中、予定より大幅に遅れて配布されたマスクに不良品が多く含まれていることが判明した。このことについて、国会では社民党党首の福島瑞穂議員が厚生労働省と経済産業省に質問を行ったが、その驚くべき回答がまた世間を賑わせている。
最も早くこの回答について報道したのが共同通信社である。共同通信社は5月14日に以下のような報道を行った。
「新型コロナウイルスの感染拡大防止策として政府が妊婦向けに配る布マスクで不良品が見つかった問題で、厚生労働省は14日、参院厚労委で、自治体から返品された布マスクの検品費用として約8億円かかると明らかにした。社民党の福島瑞穂氏への答弁。
厚労省によると、妊婦向けの布マスクを巡っては、4月30日時点で自治体に配布していた約47万枚のうち約4万7千枚について、異物混入や汚れなどがあったとして返品されていた。現在、国が委託した専門業者が約550人態勢で検品しており、不良品が確認されれば取り除くという。
また同省は、政府が全世帯向けに配布している布マスクについて、12日時点で12枚の不良品を確認したと明らかにした。」
何かおかしくないだろうか。まず不良品率が10%もあるというのは何であろう。某週刊誌に載っていたが、アベノマスクを提案した安部内閣の補佐官が、とにかくどんな物でも良いから、と号令をかけたそうであるが、妊婦にどんなものでも良いという無神経さはないだろう。ただ、当人も日本人の感覚では、10%も不良品が出るとは思わなかったのであろうが。
また、この報道の不親切さにも納得がいかない。なぜなら、厚生労働省もしくは政府が国民の血税を使って検品しているのか、(当然のこととして)受注した企業側が検品しているのか、8億円の検品費用をだれが負担するのか読み取れないからである。これでは正しい報道というよりは、Twitter上の噂話と同列である。
なお、ここ最近の報道において、この不評のアベノマスクにかかる費用が論じられることがないことも不思議である。この不良品は受注企業全社で発生しているのかどうかも不明である。
そもそも、この報道を行った共同通信社とはどのような組織だろうか。ホームページによると、共同通信社は正式名「一般社団法人共同通信社」であり、全国の新聞社、NHKが組織する社団法人として終戦直後の1945年に設立され、2010年4月に一般社団法人に移行している。組織の理念と思われる編集綱領や記者活動の指針として「世界の平和と民主主義の確立および人類の幸福を念願して、ニュース活動を行う。(中略)これらの使命を遂行し内外の信頼を確保するため、圧迫に屈せず、言論の自由を守る」、「日々のニュース活動を通じて人々の知る権利に応えることが、平和で民主的な社会を支える。この重い責任を自覚して、積極果敢に真実を追求、権力を監視して人権を守る。外部からの圧力や干渉に屈せず、自由と独立を確保する」と記されていた。つまり戦前、新聞各社が大政翼賛会の御用報道機関に成り下がってしまった反省のもと、新たな時代に向けて全国の新聞社が共同で設立した独立系の通信社である。共同通信社には、この崇高な理念に基づき、政府の圧力に屈することなく、国民が知りたい情報を正確に報道して貰いたいものである。
共同通信が報じた5月14日の参議院厚生労働委員会の様子はYouTubeに動画がアップされていたため、実際にマスクの検品に関する質疑応答を確認してみたところ、次のような内容であった。
(福島瑞穂議員からの質問に対し、厚生労働省の吉田学医政局長が回答)
‣配布した47万枚に対し、4万7千枚の不具合の報告が都道府県よりあった。
‣不具合の内容は異物混入、黄ばみ、汚れなど。
‣黄ばみについては、専門機関に調査を依頼、結果は生地本来の色であり、問題はないとのこと。
‣メーカーに対し、しっかりとした生産管理、検品の取組みを求めている。
‣当初、都道府県に検品を依頼、都道府県が保健所に検品を指示した事例があることも把握している。
‣都道府県からの要望もあり、5月1日以降、国で検品することを決めて返品を指示した。
‣検品は専門の検品業者に委託、1枚1枚、確認中である。
‣550人体制で検品中であり、費用としては予備費の7億余りを当てている。
‣まずはメーカーが検品すべきとは考えている。国も含めて複層的に検品を行い、国民の不安解消に努めたい。
‣目視では確認しづらいカビについては、包装された状態のマスクの重量を量り、水分量をチェックし、カビが繁殖し易い環境となっていないか確認している。
‣メーカーは自主回収を行っている。その費用はメーカー負担となっている。国の検品分については、事務費・輸送費共に、国の負担となっている。
(経済産業省の江崎禎英政策統括調整官の説明)
‣布マスクは当初、使い捨てマスクが圧倒的に足りない状況の中で、国民に安心感を与えるためあらゆる可能性を追求した結果、洗って繰り返し使える布マスクに行き着いた。
‣国民の安心のためには4月末までに1億枚の布マスクを調達すべきと考えたが、国内には生産する能力と材料のガーゼがないため、中国のガーゼを全て押さえ、中国国内だけで20か所の縫製工場を押さえ、1万人を超える縫子を確保し、大車輪、24時間体制で生産、出来た分から飛行機を使って日本に輸送してきた。現地検品も行ったが、残念ながらカビが生えてしまった。
つまり、検品の費用8億は国が負担する、つまり血税を使って検品するということである。委員会で福島議員はしっかりと回答を引き出していたのだから、共同通信には正確に報道して貰いたい。その他にも、当初は検品を都道府県に丸投げしていたことや、1枚1枚、目視とカビ発生の原因となる水分量の計測で検品しているなど、耳を疑うようなやり取りが行われていたことになる。また、経済産業省の役人は胸を張って上記のような説明を行っていたが、難関大学を卒業して旧国家公務員Ⅰ種試験に合格した優秀な官僚たちが真剣に検討した結論がこれかと思うと、呆れを通り越して悲しくなり、国の行く末が心配になってしまうのは私だけではないだろう。
そして、衛生材料であるマスクで10%もの不良品を出す製造企業、また不良品を輸入して配布に供した企業の責任はどうなるのであろう。まさか、非常時なのでお咎めなしという様な理不尽な話で終わらせないでいただきたい。何しろ、休業要請に従わないパチンコ屋の店名を、各自治体の首長は、その責任において公表しているのである。筆者に言わせれば、マスク不良品問題に関わった企業名こそ、公表されてしかるべきであると考えるが如何に。
(5月21日追記)
5月20日に菅官房長官が記者会見で、「(アベノマスクが)東京などに届き始めてから、店頭での品薄状況も徐々に改善され、価格も反転したので非常に効果があった」と語ったというが、国民がしらけるような言葉をよく口に出来たなと呆れたが、彼もすでにやけくそでものを言っているのだと思うと哀れにも思えてくるのは私だけであろうか。
(5月22日追記)
アベノマスクの失態に怒りを通り越して呆れ果てていた筆者の元に、ある人から情報が入った。今度はアルコール消毒液である。厚労省はこのアルコール消毒液を希望する医療機関に無償配布すると1度は通達したものの、いざ応募すると有償配布に変更、そしてエタノール75%の消毒液が大病院のみへ、厚労省が消毒液として設定する基準値(70%~83%)を下回る50%の消毒液が中小病院やクリニックに届いたという。これには主に開業医が加入している医師会のメンバーは激怒。その後、厚労省は再びアルコール消毒液を無償配布すると通達を出したものの、その通達文には小さな字で「ただし、前回有償配布に応募された医療機関は対象外」とあったため、医師会のメンバーはさらに激怒したというのだ。今回の新型コロナウイルス感染症に対する医師会の火事場泥棒さながらの政府への支援要請に呆れている筆者だが、この厚労省の対応が本当なのであれば、これもマベノマスクに続く大失態の1つとして記録に残すべきであろう。
2020.5.25
株式会社ヘルスケア・システム研究所
代表 中野 一夫
フォーラムNo.76 再度の緊急事態宣言、そして延長の顛末に思う
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